俺は素早く伝票を掴むと立ち上がった。金を払って、すぐに飛び出すために。


 ところが、結衣を見て俺はまた椅子に座り直す事にした。なぜなら、結衣はどこへも行かず、マンションの前に立っていたから。まるで誰かが来るのを待つかのように、道路をきょろきょろ見ながら。


 結衣のやつ、マンションのまん前で男を待つつもりか?

 なんとも大胆というか……。世間知らずのお嬢様は、人目を忍んで浮気する、という常識(?)すら知らないようだ。


 ふっ。

 なんて、笑ってる場合じゃないだろ?


 俺は茶髪の男が現れるのを待つ事にした。ウェイトレスがランチを持って来たが、それを食う気にはなれなかった。