「君からどうぞ」


「いや、あんたからどうぞ」


「ん。では聞きたい。なぜ殴らなかったんですか?」


「俺も同じ事を聞きたい」


「君の目を見てたら、その気がなくなった」


「俺もです」


 どちらからともなく、俺達はフッと笑ってしまった。一条陸という男は、一見チャライように見えるが、実際は頭が良く、静かな心を持った男のようだ。

 そして、結衣という共通の存在を通じ、親近感のようなものを俺は感じていた。