そう言って、今度は一条陸が俺の胸ぐらを掴み、拳を振り上げた。


「どうぞ」


 俺はそう言って、一条陸に殴られるのを待った。ところが、


「やめた」


 一条陸はそう言い、拳を降ろして俺から手を放した。


「あの……お客様?」


 いつの間にか近くに来ていたウェイトレスが、困惑した顔で立っていた。


「あ、何でもないですから」


 そう言って俺と一条陸は椅子に座り、俺がコーヒーを注文すると、ウェイトレスは苦笑いを浮かべて離れて行った。


『なぜ……』


 俺と一条陸は、同時に口を開き、同じ言葉を発した。