「あなたは、私の頼みを無視したようですね?」


「頼み?」


「そうです」


 一条海から、俺は何かを頼まれただろうか……?


「…………あっ」


「思い出しましたか?」


「はい」


 思い出した。前回、俺の職場に一条海が現れた時、彼が『結衣を幸せにしてください』と、俺に頭を下げた事を。頼みとはその事だろう。


「あるいは、その答えがあれですか?」


「と言うと……?」


「つまり、あなたじゃ結衣を幸せに出来ないから、結衣に離婚届を渡して実家に帰らせた。そういう事ですか?」