ハッとして後ろを見たけど、そこには誰もいなくて、そんな俺に陽菜が思い出したように言った。


「あ、見てたのは一瞬。私達がキスしてたところかな。私と目が合って、すぐに逃げちゃったけど」

「お前……!わざとか?!」


焦りからか、大きな声で陽菜に詰め寄った俺に、陽菜は逆に冷静な態度を見せた。


「柊哉、私は本気だよ。愛波ちゃんには負けたくないの」

「……………」

「生半端な覚悟で、こんな事してる訳じゃないんだから。その辺のミーハーな女と一緒になんかしないでね」


そこまで言うと、陽菜は唇をギュッと結んで俯いた。


「……陽菜ー?!いるか?!」


ふと、グランドから海斗の声がして、陽菜も俺も我にかえったように、ベンチから立ち上がる。


「……じゃあ、またね、柊哉」


踵を返した陽菜の目が、真っ赤に腫れていた気がした。