「えっ?」

「梨恋、ずっと桜を見てたんだよ?他に誰もいないのに、そんなことあるわけないじゃん」



『誰もいない』


その言葉に、俺は全身から力が抜けそうなくらい悲しくなった。


今、俺の隣にはカズハがいる。

さっきまで俺の後ろに隠れてて、絶対に梨恋の位置からは見えなかったカズハ。

でも、今は違う。


それなのに、梨恋から見ると『誰もいない』らしい。


「キョー、残念じゃが、見えぬのならば仕方がない」


カズハが、俺の服の袖を軽く引っ張る。


少し横を見ると、カズハの顔が珍しく無表情だった。


カズハは、梨恋の存在を昨日知ったばかりだ。

しかも、会ったのは今日が初めて。


それも、梨恋には気付かれないまま。

一方的な出会いだ。


だから、普段はあんなに笑ったり、怒ったりと表情豊かなカズハのこの顔は
その落胆ぶりを表してるみたいで、何だか悔しい気分になった。