「・・・ったたた」

猫みたいな女の子が顔をしかめる。
思った以上に強くぶつかったみたいだ。
「ごめんっ!!」
俺があやまると、キッと小さくにらみ
「もうっ!気を付けてよねっ!」 と怒鳴った。
こえぇえ・・・・。猫みてえ・・・。
ハア・・・それより体がきつい。そっか俺熱あるんだっけ。
早くどこかに座りたいんだけど・・・
「・・・・だいじょうぶ?」

俺をさえぎるように女の子は言った。

「えっ?」

ぶつかったのはおれのほう・・・

「え じゃないよ。体調悪いんでしょ?熱あるんじゃない?」

な、なんで知ってんだ?

「おーい ほんとにだいじょうぶ?」

ぼうっとつっ立った俺を心配そうにのぞく女の子。

さっきまでの剣幕はどこにいったんだろう。
っていうかなんで熱あること知って・・・

「お前・・・エスパー?」
「・・・頭だいじょうぶ?」
「すっごい痛い。」
「ほっ 本当に大丈夫!?」

今度は慌てだした。
やっぱり猫みたいでかわいい。

「保健室いくよっ!」
俺の手を引く。
ひんやりと冷たくて気持ちいい。
心臓うるさい。
顔が熱い・・・・。
風邪だよ。風邪のせいだ。
一晩寝れば治るはず。

「先生いないね~?
どこいったのかな」
「入学式だもんねー。
あ、ベットに寝といて?」

独り言をつらつら並べながら引き出しを物色する。

「これでいいの・・・?
・・・・まあ大丈夫だよね?」

無断でいいのか?なんて言いたいところだけどなんかもうどうでもよくなってきた。
頭が痛い。ベットに横になるとドッと睡魔がおそってきた。

「ねー校長先生さ、誰かに似てると思わない?」

俺に背を向けたまま、話しかける彼女。

「あっ牛に超――っ似てた!!!」
「えっ どこが!?」
「えっ?似てるじゃん!あのタラコ唇なとこ!!」
「タラコ唇と牛の関係性をしりたい」
「・・・うしはたらこだろ」
「ぜったい違う!!」
「・・・あっ、わかった!めんたいこか!!」
「ちっがーう!!(笑)」
あははははっ
誰もいない静かな保健室に2人の笑い声が響く。

二人きり・・・。
今更だけど緊張してきた。ほおに変な熱がこもる。
やべ・・風邪悪化したのか?

「ねー・・・そういえば名前は?」

「・・・川口祐樹」

小さくつぶやく。
ふと見上げると彼女がいつの間にかベットの前に立っていた。
手には風邪薬と水と冷えピタ。

「川口君ね。私は千秋。野田 千秋」

そう言ってにっこりとやさしく笑う千秋は可愛かった。


そこからの記憶は曖昧だけど、
   俺はいつの間にか夢の世界へと旅立ったようだ。

目を覚ますと千秋はいなくなっていて、
代わりに残ったのは、
保健室荒らしが出た という噂と、
ぬるくなった冷えピタと、
一晩たっても覚めなかった熱 だけ。