「山は、ここやガレー船の中にくらべたら、
そりゃもう桃源郷みたいなとこだった

食べ物にも、住むところにも、着るものにも、
困ることなんて無い。」

「ええー!!そんなとこがあるの!」

「そのかわり、厳しい修行があるんだよ。」

「どんなことするの?」

「・・・・あまりくわしくは言えない。
たしかに、きつかったけど、娑婆のほうが、もっときついな」

「さみしくはなかったの?親がいなくて」

「そういうのはなかったな。たしかに、
たまに里帰りで家族のもとへ帰る同胞もいたけど。
餓鬼の頃はいつもまわりにめんどうみてくれる兄者たちがいたし、
大師さまもいらっしゃったし」

「大師さまって?」

「もう、ものすごく偉大な方だよ。とても恐ろしい。
あまり話したことないけど」

「サダクローはすっごいいいとこで育ったんだね。
いいなあ。」

「たしかに、いいところだったよ。そして、素晴らしい教えを授かったよ。
でも、今の俺を見ろよ。ただの屑だ。」

qは水面から顔を上げて俺を見た。
qの眼の中に俺の顔が映っていた。
そのとき、はじめてqがまともな人間に見えた。

「サダクローは屑じゃない」

なにを根拠にそんなことを言うのか皆目わからなかった。