「考えたことない?例えばこの景色って、おもちゃを並べた積み木みたいだ。
それに、あの車道を走る車。
子供のミニカーみたいじゃん。
そんな街の中で、いろんな人がそれぞれの生活を送ってるんだ。
それって、よく考えてみたらおもしろくない?」
くすりと笑いながらそう言った彼は、私と同じような視覚で積み木の街の光景を見ながら、全く違う感想を持っているようだ。
私からしたら、不思議で仕方ない思考回路。

こんなにも不変で、つまらない光景が面白いらしい。
私は首を傾げた。

「……そうかな?」
「ま、考え方はそれこそ人それぞれだからな。俺、あれだ。ポジショニング?だから」
「……もしかして、ポジティブってこと?」
「お、それそれ。それよりさ」

ポジショニングとポジティブの違いは、彼にとって大したことではないらしい。
軽くからからと笑い、受け流された。
そして何故か急に真剣な顔をして、尋ねてくる。

「放課後、時間あるなら残ってて。話あるんだ」

珍しい、誰かからの頼みごとに少し私は驚いた。
でもすぐに、知らぬ間になにか彼にやらかしていて、それについての文句なのかという行き過ぎたネガティブな妄想に、我ながら疲弊する。

しかし、もしかしたら只単に親睦を深めようという提案なのかもしれないという、若干の希望を持つように、ポジショニングではなくポジティブに考えながら答える。

「……うん」

同意の返事を返すと、相模くんは嬉しそうな笑顔を満面に浮かべる。

「よし!じゃあ教室で待ってて。俺用事でちょっと図書室行くけどさ、すぐ帰ってくるから」

相模くんが言い終わると同時に、休み時間終了を伝えるチャイムが鳴る。
私は相模くんの言葉に返事をするタイミングをチャイムに奪われ、開き欠けた口を閉じてしまう。

なんだかその姿は情けなかった。