そんな私お気に入りの空模様の下には、子供の玩具箱の中身が緻密に組み合わさったような、積み木の街の光景が広がっていた。
無機質な色をしたビルが建ち並び、クレヨンで書き記したような横断歩道、が縦横無尽に地を這って、ミニカーみたいなカラフルな色をした車たちが、隙間を縫うように伸びていく車道を忙しそうに走り回っている。
何故だろう。やっぱりなんともつまらない光景だ。
私がつまらないと思っているからそうなるのだろうけど、こんな光景を見ていても何一つ、私の感情には響かなかった。
そんな色褪せて渇ききった私の世界に、唐突に介入してくる人物がいた。
「なにしてんの、神田」
神田というのは私の名字。フルネームは神田紗和という。
ただ学校では私の名前はあまり意味がない。
何故かというと、誰も私の名前を呼ばないから。
でも、中には例外が居る。
今声をかけてきた相模眞人が、その例外。
少し伸びた黒髪と、しなやかな体躯で長身の彼は私の隣の席の主で、事あるごとに、いや何もなくとも話しかけてくる。
そのわりに内容は他愛ない話ばかりで、だけど妙に私に関わってくる。
しかも、彼はクラスの男子達の中心人物。
社交的で男女問わず人気がある。
それなのに一人でいる私に、あえて話しかけてくる、謎の人物だった。
「……外見てた」
私は、短くそれだけ答える。
私は自分のことを、大抵は理解しているつもりだ。
卑屈で、被害妄想と猜疑心が強いひねくれ者。
クラスメイトは多分、私を愛想がない無口でそっけない人物だと評価しているだろうと思う。
その性格と仏頂面から、社交能力必須の中学時代からは親しい友人は居なかった。
勿論それは高校に入学しても続き、中学と同じくクラスメイトも最初はよく話しかけてきたものの、今では当たり障りなくといった距離感を保つようにしている。
そんな感じであまり喋らない為か、だんだんと私自身話すのが苦手になってきた。
そしてどんどん人と関わるの自体が苦手になり、私を囲うように見えない壁が築かれている。
相模眞人はその壁を越えるどころか、それこそ破壊する程の勢いで私に話しかけてくる。
嫌ではない。寧ろ嬉しい。けれど思惑がわからなくて、怖い。
そんな私の心中を知ってか知らずか、彼は人の良い笑顔を浮かべながら、席に座ってとうとう本格的に話し始める。
「へえ。なんか変わった事あった?」
「特にないけど……」
「でもさ、景色って見てるだけでもおもしろくない?」
「え……」
私と正反対の感想を述べる彼に、思わず窓の外に固定していた視線を向けた。
すると彼のほうが外を眺めだし、私の視線には気づいていないようだった。
それよりも、何故こんな変わり映えのしない景色が面白いのだろうか。