私の住んでいる村にはある掟がある。
村の偉い人に選ばれたら危険な遊びをしないといけない。
呼ばれる法則も内容も分からない。ただ危険な、危険と称される遊び。
それに今回、私が選ばれた。
「……雛」
「大丈夫だよ。椿くん」
心配そうに眉を下げる椿くんに言ったのだけれど、本当は自分に言い聞かせていた。
怖いけれど、大丈夫。きっと、きっと……。と。
けれど、私は何もかもを甘く見過ぎていたんだ。人の本質は計り知れないのだ。
【禁断ノ遊ビ】
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閉ざされていた瞳を開ければ、当たり前に知らない場所。
普通に考えて偉い人……柊様の屋敷だろう。
広い畳の部屋に一人、私は居た。誰もいない。音も何も無い。
何だか落ち着かなくて辺りを見渡した。
私の目の前は襖、右手も襖、左手も襖、後ろは押入れ。私の家なんかよりも何倍も広いだろう。
後ろからまた前を向こうとした時、視界の左端に何かが映った。
その何かは分からない。だけど先ほどまで開いていなかったのに数センチ、襖が開いているのだ。
不思議に思い、恐る恐る開いた隙間の一直線上まで数歩ずれる。
と。
「っ!?」
見えたのは赤。
赤い、目。
驚いて、出そうになった声を飲む。
本能的に一歩下がれば同時に襖は大きく開かれた。
赤い目と白い髪の、私よりも幼く見える男の子。いや、女の子?分からない。中性的な顔立ちをしている。そして、まるで赤い目を強調させたいかのように白い着物。
「はじめまして……かな?」
光の宿っていない目で無邪気に微笑む。別の誰かと誰かを継ぎ接ぎに繋いだ人間のようで気持ちが悪い。
それでも、震える声を絞りだした。
「ひ、柊様……は?」
「薺(なずな)が柊だよ。君を……雛を呼んだ柊薺」
また、笑う。
幼いなどと思ってしまったのは、偉い人は年が上だと思い込んでいたからだ。こんな人が私に何を……
「雛」
「はっ、はい!」
「……遊ぼうか?」
酷く歪な笑みで告げられる言葉。
赤い目は、まるで……まるで……獲物を狩る目。
危険を感知したけれど、逃げられはしないだろう。
村の掟は絶対。絶対は村の掟。
だからこそ、問う。
「な、何をして遊ぶのですか?」
自然と声が震える。
それと比例するかのように弾む顔と声。
「かくれんぼ!」
「かく……れんぼ?」
「そう。薺が30秒数えるから雛は隠れるの。今から開始だよ」
「……え?あ「ほら、いーち」」
「っ、」
カウントが始まった瞬間、疑問も何もかもを置き去りにして走り出していた。
長い長い、冷たい冷たい、廊下を。
広く、その上知らない屋敷だから何処に隠れればいいとかそんな事分かるはずもなく、私が選んだのは幾つかの部屋を越えた先の押入れだった。
押入れの隅に小さくなり、息を潜める。
すぐに見つかるかもしれない。だけど、30秒はとっくに過ぎている筈。
だから一度隠れて様子を見た後、また移動する。
そうするしか……
――……ギィ…ギィ……。
「!!」
その時、小さいけれど床が軋む音が聞こえた。
一歩一歩、ゆっくりながらに確実に近づいて来ているのがわかる。
即座に歯を食い縛り、何があっても声が出ないように口を両手で押さえた。
息もできなくなるくらい強く抑えた。
音が大きくなるまであと少し。
狭く、暗い押し入れば恐怖を増強させるには十分過ぎるくらいだった。
焦燥感にも似た嫌な感覚が沸き上がる。下半身からくる冷たさはどうにも出来そうにない。
なのに、同時に冷静な自分が隅に佇んでいた。どうして此処まで必死なのか。と、問いかけてくる自分が。
だが、すぐに冷静な部分は消えた。危険な遊びだと呼ばれるのだから、遊んではいけないのだと察したから。
きっと、柊様と遊ぶ事こそが危険なアソビだから。
そうなれば、只のかくれんぼでは……ない……?
「っ……っ~~」
不意に襲ってくる恐怖に身を縮める。その間にも迫る対象。
音が鳴るたびに、一つ心臓が跳ねる。
ギィ。ギィ。と、床が軋んで。軋んで……
止まった。