このお話のモデルは、ロミオとジュリエット。





シンプルだけど、アレンジを加えた物語。






「‘わたしを連れ出してください。ロミヲさま’」






グハッ…楠、棒読み…。客席の女子は、楠の女装をみて黄色い声をあげている。





それを打ち砕くような演技。(だけどウケはいいんだよね…)





「‘連れ出して見せま…’」






あたしが台詞を言い終える直前だった。






このときあたしが、早く動いていたら。






もう少し早く劇が進んでいたら。






あんなことにはならなかったのかもしれないね。





まるで車が何かにぶつかったような派手な音が頭上で聞こえた。






「―――――梨ッ!!!!!!」






上を見上げたあたしは、ただ立ちすくんでいた。




誰かが、低い声があたしを呼んでる。だけど、怖くて心臓の音がうるさくてうまく聞き取れない。





動け、足…






あたしの頭上に見えてしまったのは、舞台照明の……一部。





黒くて重そうな金属音だけがはっきりとあたしの耳に入った。