―――「それじゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい。気をつけてな。また遊びに来てくれ」
俺は静かにほほ笑んで、玄関を出た。
いってらっしゃいを言われたのは何年振りだろう。
愛梨、お前の家に来てから 何年振りだろうって考える時間ができたきがする。
愛梨の父と、誰にも言えない秘密を交わした。
「あーぁ…羨ましいな」
アイツの家庭が温かく感じてならなかった。久しぶりの幸福感と苦い俺の現状。
アイツの育った環境があるから、アイツは笑顔で
その過程で俺は惚れた。
あの図書室で起きた、覗き見。本当は、それよりずっと前…
『あの…これ…』
『あ?』
入学式当日だった。中学からの追っかけに取り囲まれて戸惑う俺に一人の女が近寄ってきた。
『生徒手帳……お前が拾ってくれ…』
俺の顔を見ないで俯くソイツは、綺麗な栗色の髪を持っていた。
思わず名札に目を落とす。
矢澤…愛梨
俺と同じ学年……
俺が黙り込むと、焦って頭を下げて人込みに埋もれて行った。
その時から、見かける度、徐々に ただの女から惚れた女に変わっていった。
だから…