「……猛が変な遊び始めないようにだよ…………?」
あたしにはハッキリと聞こえた。
低音で小さく、口先だけで呟く彼女の言葉が。
可愛い顔だち。目だけが笑ってない。
「聞こえねーんだけど…」
「あれぇ?おかしいな。だから、今日猛、雛とデートの約束だったでしょ?」
「してねーよ」
ギロリと南さんを睨みつけた後、あたしをみた。
視線で分かる「ごめん」の言葉。
そんなのあたしに謝ってる場合じゃないでしょ…?
「猛、南さんとデートだって言われてんだから、アンタが忘れてんでしょ?はやく行きなさ…「るせぇ」
あたしは、この野獣に家を出て行ってもらうチャンスだと捉え、そして約束を忘れてる楠に注意したつもりだった。
だけど…三文字、それだけの言葉で遮られた。
「雛楽しみにしてたんだよ?!猛忘れちゃうなんてッ…酷いよ」
それまで南さんを睨んでた猛の顔つきが変わった。