狭いカウンターの中で半歩だけ貴方から離れてやると、予想通り貴方は安堵の息を吐く。

 長い睫を震わせて視線を伏せてしまった。


「まったく、何考えてんだよ。」


 貴方の震える声は先程よりも掠れている。

 悪化しちゃいました?


「アタシの考えている事なんて、単純ですよ。竜哉サンの事だけですからねぇ。」


 本当、寝ても覚めても貴方の事ばかりですよ。

 自分でも困っているくらいですからねぇ。

 意地の悪い笑顔の私に、睫の影を落とした貴方の瞳が小さく見開かれる。

 何を今更、驚いているんでしょうか、この子は。

 私の胡散臭い笑顔の中に悪魔の姿でも見えたんでしょうかねぇ。