無理やり貴方の瞳を捕らえたにも関わらず、貴方はすぐに私に背を向けて逃げてしまった。


「あら、そういう態度を取っちゃうんですか。」


 声を立てて笑う私は、今の貴方には悪魔の様でしょうね。

 実際、悪魔の様な私ですけれど。


「翠さんが見なければ良い事だろ。」


 私より大きい筈の背中は、酷く小さく見える。

 私は貴方の抱き付く様に手を回すと、貴方の手の中にある酒瓶を取り上げカウンターの上へと乗せた。

 鈴蘭の花瓶の真横。

 はぁ、と大きな溜め息を吐いた貴方は、邪魔な私の手首を掴むと眉間に皺を寄せて、背中側にいる私を睨んだ。

 首だけ振り返った貴方の瞳が揺れている。

 何が不安ですか?

 あぁ、私に脅えているんですね。

 掴んだ貴方の手は明らかに平熱じゃありません。

 本当、襲い甲斐のある顔ですねぇ。