『好き』
『愛してる』
そうお互いに躊躇することなく言い合っているカップルを見ると、
苛つきが溢れる。
あたしが言えない言葉を
いとも簡単に出せてしまう。
大先輩に失礼だけど
それが羨ましく、
同時に憎かった。
『好き』。
たったその一言が言えなくて。
自分は弱虫だなぁと自覚しながら、
喉に溜め込む天の邪鬼。
気持ちを伝えずに引き延ばしにしていたらどうなるかなんて、
経験済みで、身にしみてるから解るのにね。
彼に好きな人がいることは とうの昔から知ってた。
隣のクラスの可愛いあの子。
高い声。細い体。
清楚代表といえるあの子とあたしは大違い。
むしろ真逆。
解りきった事実のおかげで
どこからともなく絶望感が漏れだす。
そういえばいくつか噂………
というか体験談を聞いたことがある。
『あの子は腹黒い』
あの子と同じ小学校の子から聞いた話。
といってもその小学校の人は 一番高い割合を締めてるけど。
内容を聞けば確かにありそうな話だった。
けどあの子は中学になってからボロが出ていないおかげで、
あたし自身はまだ信じられない。
彼とその子は同じ小学校だったはず。
あの子の本性を、
知らないで好きなのか、
知っていても好きなのか、
見てみぬふりをして好きなのか。
見当もつかない。
けど好きなんだろうなぁ……………。
鏡を見ながら 溜め息をついた。
そういえば あたしはあの時恋に気づいたんだっけ?
少し前の金曜日のことだった。
理科の授業の初めの号令でふざけたために その先生が職員室に帰ってしまうということがあった。
結局は学級委員が先生を呼んできて、ふざけた人たちが謝ったことで授業は再開されたけど……………
悲劇は次の授業で起きた。