「・・・はい?黙って、横に居ればいいんですか?」

「そう」

「・・・どうしてですか?」

「理由は後で説明する」

 さすがにムカッときて、きゅうりの服を引っ張る。

「楠本さん!あのですね・・・」

 噛み付きかけたところで、お嬢さんと青山さんがこっちに気付いた。

「楠本さーん!」

 とお嬢さんが嬉しそうに呼びかけて、隣にいる私を不思議そうに眺めた。その首をかしげる角度までが完璧に可愛い。

「あれ、瀬川さん?」

 青山さんも不思議そうに言って、こちらに来る。

「えー・・・青山さん、お疲れ様です」

 ひきつったまま、とにかく挨拶をした。掴んだままだったきゅうりのコートをパッと放す。

 相変わらず私のことは完全にスルーしたままで、きゅうりが言った。

「長谷寺さん、お待たせしました。青山とは話は終わりましたか?」

 きゅうりが営業スマイルを見せた。ただし、この営業スマイルは、何か冷たい感じがした。

 私が気になるようでチラチラこちらを見てたけど、お嬢さんは頷いて話した。

「うん、住民票やっと移したから、青山さんに手続きお願いしました」