「髪も長くていつもフリフリのスカートなんか履かされてさ。
近所のおばさんたちにも『可愛いお嬢さんね』とか言われてたから、まさか自分が男だなんて疑うこともなかったんだ」

あたしはリクの話しを黙って聞いていた。


「男だって気づいたのは小学生になった時ぐらいかな。クラスの男子にからかわれて……男なのにスカートはおかしい。変態だ!ってね。
家に帰って母さんを問い質したら真顔で言ったんだ。『りっちゃんは女の子よ』って」


りっちゃん……?

リクが母親にそう呼ばれていたことがあたしの心をチクリと刺した。


「でも、どう考えても男なんだよね。だから周りの男の子たちの喋り方を真似たり服装も変えたりして僕は男だって主張するようになったんだ。それを母さんは気に入らなくてよく叱られたよ『僕じゃなくて私でしょ』ってね。どうしてそこまで俺を女にしたいのか分からなくて母さんによく反抗してたよ。
どうしてかって分かったのが中学の時」


リクはふうっと長い息を吐いた。
そして意を決したように話しを続けた。


「俺の生まれる前に姉さんがいたんだ。待望の女の子だって母さんはすごく喜んだらしいよ。でも病気で二歳の時に亡くなった……そのすぐ後にお腹に子供がいることが分かって……それで母さんは死んだ娘の生まれ変わりだって思い込んでしまったらしいんだ。
生まれてきたのが男の子だって分かった時も『梨乃が戻ってきた』って……」


「リク……」


俯いてるリクが泣いているように見えたから思わず写真を握っているリクの手を掴んでしまった。


「今でも母さんは俺のことを姉さんだって思ってる……陸人っていう息子としては一度も見てくれたことはない。見兼ねた父さんが俺と母さんを引き離すために部屋を借りてくれたんだ」


「リク……もういいよ」


辛いことを思い出させたのはあたしだ。

あたしが余計なことをしたから。


「こんな話を聞かせてごめん……」

「ううん。違うの。リク……ごめんね」


俯いてベッドに座っているリクを後ろから抱きしめた。