いやいや。そうことではなく……

前にもリクに後ろから抱きしめられたことがあった。

気持ちが不安なのは今も全然変わらない。

毎日のように一緒に居るのにリクが何を考えているのか全く分からないから余計不安になる。

春樹とリクの会話を聞きながらあたしはそんなことを考えていた。


「りっちゃんは海道陸人と別れたわけじゃないのね。だったらそう言ってくれればいいのに」

ユメカはちょっと怒った口調で二人に聞こえないよう小声でいうとその場を離れた。

チラリとリクを見ると目が合ってあたしに向かってニコリと微笑む。


「一緒に帰ろ」


この笑顔に弱いんだよな……


クラス中の女子の視線がちょっと……いや、かなり痛い。

チクチクと刺されるような針地獄から早く抜け出そうと椅子から立ちあがった時、澤田先生がドアからひょこっと顔を覗かせて言った。


「上原忘れてないだろうな。準備室!椎名は先に行ったぞ」


そ、そうだった。

担任がこの澤田先生になった時点で気づくべきだった。

あたしの高校生最後の一年は澤田先生にこき使われて奴隷のように虐げられる毎日を送るんだ。

一年後の自分の姿が脳裏に浮かぶ……

髪は乱れゲッソリとこけた頬。目の下には真っ黒なクマができててそれはまるで死人のような顔……


い――や――だ―――――っ!!


「海道といちゃついてないで早く来い」


「センセーはあたしの若さを吸い取る吸血鬼ですか?」


先生は片方だけの口元を上げて言った。


「上原……知らなかったのか?」



マ、マジですかっ。