当たり前だけど拓にぃにカレーを返してもらうことはできず、あたしはリクんちの玄関を憂鬱な気持ちで上がっていた。

手ぶらではいけないと昨日買ったお菓子を持参して。


絶対許さないんだから!心のデスノートに春樹の次に名前を刻んでやるっ!


拓にぃに殺意を抱きながらキッチンに入るとリクが笑顔で迎えてくれた。

「実は……カレーなんだけど」

「いいよ。イトコのお兄さんが食べちゃったんでしょ?夜中に食べても胃に優しい雑炊でもつくるから、リツは座ってて」

なんだか嬉しそう?

そんなにあたしのカレー食べたくなかったのかな……

言われたままに座っているとすぐにいい匂いが漂ってきた。

「熱いから気を付けてね」

何度かふうっと息を吹きかけて、熱々の雑炊を口の中に入れた瞬間、幸福感でいっぱいになる。

だって、優しい味を包み込むような半熟の玉子。

上に乗っている刻んだネギもまたアクセントになってて味に深みを出している。

「う~ん。サイコ―」

あたしの食べっぷりを微笑んで見ていたリクが言う。

「イトコのお兄さん、今日も泊まるの?」

「うん。そうみたい」

「なら、リツはここにいればいいよ」

ここに……?

だってここにいるってことは、リクの部屋のあのベッドで寝るってこと?

「い、いいよ。拓にぃはリビングで寝るんだろうから、あたしは自分の部屋に鍵かけて寝るから大丈夫」

どう考えたって、あのベッドはまずいでしょ?

「あっちでは寝れないかなって思ったから、リツと一緒にここでゲームでもしようかと思ったけど……そっか」

残念そうにそう言うとリクは雑炊を口に運んだ。

「ゲームか……春休みだから、1日ぐらい徹夜してもいいけど」

「ホント?」

「うん。お菓子もいっぱい持ってきたし、朝まで対戦しますか」

リクの落胆した顔、見たくないんだよね。

それもあるけどあたしがリクと一緒にいたいってのもある。


テーブルにお菓子を広げ、床に座りソファに凭れるとゲームのコントローラーを握る。

ゲームに飽きるといくつか置いてある映画をリクと一緒に観た。

何本か目の洋画で苦手な英語が流れるといつの間にかそれを子守唄のようにして眠っていた。