<リツ。どこにいるの?>

「……駅前のネットカフェ」

<分かった。今すぐに迎えに行くから!>

あたしはどうして電話に出たんだろう。

どうしてこの場所を教えたんだろう。

答えは分かってる。


あたしはリクに会いたい。


何があっても、どんなに傷ついても、あたしはリクの傍にいたいんだ。


それってなんか……悲しいね。



耳を澄ますと、パソコンのキーボードをたたく音や男の人の咳き込む音。カップルの会話や人の歩く足音。

色んな音が聞こえてくる。

リク。本当にここに迎えに来てくれるのかな?

あの女の人は帰ったの……かな?

椅子の上で膝を抱えるとギュッと固く目を閉じた。




「リツ!」

「ちょっとお静かにお願いします」

大きな声を店員さんに注意されているのは間違いなくリクの声だった。

あたしは窺うように扉をそっと開けて通路を確認した。

リクがあたしに似た髪をしている女の人の腕を掴んであたしじゃないと分かると「すみません」と謝っている。

必死になってあたしを探すリクを見ていると自然と扉を開けていた。

「リツ……」

リクがあたしを見つけるとホッとした顔になって傍に近づいてくる。

首筋に汗が流れていて、ここまで走って来てくれたんだと思うとまた涙が流れた。

「リツ。帰ろ?」

「帰れない……よ」

泣き顔を見られたくなくて顔を手で覆うと、リクの手があたしを引き寄せた。

リクの胸におでこがトンと当たる。

「部屋にいたのは俺じゃない」

「そんな言い訳、意味ないよ。だって……あたしとリクは……」

友達だから心配して来てくれたんでしょ?

「言い訳か……信じるか信じないかはリツに任せるよ。でも。今日は帰ろ?」


リクはあたしの手を握るとマンションまで無言で歩いた。

こうしていないとあたしが逃げるって思ってるのかな。

ついこの前まではよくこうやって手を繋いで歩いたよね。

それが凄く遠い昔のことのように思える。