魔王交代から数日。
魔界は元の日常を取り戻しつつあった。
そんなある日。
「…何か御用でしょうか、魔王様」
魔王の城に呼び出されたのは、ライト。
「シルアの件、オレの目につきたくてやったんだろ?」
魔王の単刀直入な突然の質問に、ライトは少し驚いたが、あっさり事実を認めた。
「オレにとって、これはまたとないチャンスです。ぜひ、魔王様に覚えていただきたいと思いまして」
ライトは真っ直ぐに魔王を見て、そう言った。
が、しかし。
「オレはおまえを知ってるよ」
魔王は、意味ありげに笑ってそう言った。
「…へ?…あの…」
ライトは戸惑い、接点があったかを思い出そうとしたが、魔王がそれを打ち切った。
「まぁ、おまえを知らない奴なんて、あんまりいないんじゃないかと思うけど」
たしかにライトは元々、シルアほどではなかったが、かなり有名なボスだった。
十歳前後でボス、しかも魔界に数名しかいない一流ボスとしてかなりの実績をあげている。
しかもグループ人の大半が見習い、しかも他のグループを追い出された”出来損ない”。
しかし優しいというわけではなく、一部では魔界一怖いボスだとも言われていたりする。
そんなボスが目立たないわけがなかった。
「光栄です」
そういうことか、と把握したライトは、ほっとしてそう言った。
「で、本題だ。おまえがオレを利用したいと思うなら、使ってやるよ」
魔王はあっさりそう言った。
「………」
ライトは魔王を見た。魔王もライトを真っ直ぐ見ている。
使うだなんてそんな、なんて、安っぽい言葉は求められていないのは見て分かる。
このチャンスは、ライトにとっては願ってもないことだ。
だがしかし、魔王に一体どんな思惑があるのだろうか?
シルアの件があったからといっても、優秀なボスは他にもいる。
というか、シルアの件があったからこそ、危険因子として見られる覚悟もしていた。
とりあえず目立って、仕事で忠誠心を見せていけば…と、思っていたのだが…。
「すごくありがたいことですが、でも、なぜ…」
「覚悟があるのか、ないのか。それだけ聞きたい」
魔王はライトの言葉を遮って、そう言った。
そう言われて、ライトは笑った。もちろん心の中で、だが。
そう。魔王に何か策略があるなら、自分はそれを超えればいいだけのこと。
今疑ってチャンスを逃すなんて、そんな選択肢、自分の中にあるはずがない。
「ぜひ、使ってください」
ライトはそう言って、跪いた。