「ねぇ、ゆうべナナセ君から電話あった?」
 鍵をドアノブに差し込んだ美嘉にアタシは聞いた。
 ドアが開いて、アタシは美嘉にどんと背中を押された。
 はじめて登った学校の屋上は、見上げると大きな夏の雲があった。
「電話があったからあんたを怒ってるのよ。よりによってあんなヤツにあたしの番号教えるなんて」
 あんなヤツ?
 メイや凛も、同じことを言っていた。
「どういう意味?」
 美嘉は何もわからないでいるアタシに、中学生のときに起きた事件について教えてくれた。
 美嘉が中学時代のことをあまり語りたがらなかったのは、その事件のことがあったからだった。



 美嘉が中学二年生のとき、体育の授業から教室に戻ってくると、彼女のセーラー服に白い液体がいっぱいついていたことがあったという。
 男の子の精液だった。
 その事件は学校中に知れわたるほどの大事件になったという。
 外部からの侵入者か、あるいは内部の者の犯行か。学校中でいろんな噂が流れたけれど、そのときは犯人は結局わからなかった。
 すると今度は音楽の時間に、美嘉がリコーダーを吹こうとしたところ異臭がした。
 おそるおそる分解すると中にべっとりと精液が詰まっていたという。
 その後も何度も美嘉の鞄や、教科書、筆箱や弁当箱などが次々と同じ被害にあった。
 美嘉や彼女の両親は警察に通報しようとしたけれど、学校は事件が表沙汰になることを恐れて、校長や教頭や担任の先生が菓子折りをもって美嘉の家を訪ねてきて、通報だけはしないようにと何度も頭を下げて揉み消そうとしたそうだ。
 そして事件が起きた日は、必ず体育の授業がある日だということ、毎回体育に出ずに保健室で寝ていた男の子がいることがわかった。
 それがナナセだったそうだ。
 ナナセもyoshiと同じで、ふたりは県大会で戦ったこともあるバスケの名選手だった。事件は教師たちによってなかったことにされ、彼もスポーツ推薦でこの高校に入学したのだという。
 アタシにはナナセがそんなことをするような男の子には見えなかった。