ワンピースは夏が始まる前より少しだけ安くなっていて、安田にもらった一万円札で払うと少しだけお釣りが出た。
「これ、着て帰りたいんですけど」
 ワンピースを折りたたんで袋に入れようとした店員さんにアタシは言い、タグを切ってもらって試着室で着替えさせてもらった。
 代わりに脱いだセーラー服を袋に入れてもらった。
 紺のハイソックスと学校指定のローファーの靴がワンピースにあわなくて、アタシはハイソックスを脱いで「このワンピースに合うサンダルありませんか?」店員さんに選んでもらったサンダルを残ったお金で買った。
 ハイソックスも靴も鞄も袋に入れてもらった。
 店を出たアタシは家へ向かって歩いた。
 ずっと欲しかったワンピースを着ているのに、アタシはなんだかちっとも嬉しくなかった。
 商店街を歩きながら、気が付くとアタシは涙をこぼしていた。
 体を売って手に入れたお金をで欲しいものを手に入れても、胸にぽっかりと穴が空いてしまったかのような虚しさがあるだけだった。
 灰色の雲が空を覆い、スコールのような雨が降り始めて、アタシの涙を洗い流してくれた。
 アタシは傘を持っていなかった。
 買ったばかりのワンピースはすぐにずぶ濡れになった。
 たぶんアタシは、もう二度とこのワンピースを着ないだろう。



 部屋のドアに鍵をかけてひきこもったアタシを、ハーちゃんが訪ねてきた。
 ハーちゃんはコンコンと優しくドアをノックして、アタシの名前を呼んだ。
「どうしたの? ずぶぬれで帰ってきたりして。廊下がびたびただってシーちゃん怒ってるよ」