安田は笑った。
「だめだよ。アタシなら大丈夫だから」
 アタシは自分に言い聞かせるように、
「すぐに馴れるから」
 そう言って笑った。
 安田はまた「そうか」とだけ言った。



 ラブホテルの入り口で安田と別れて、アタシは美嘉たちが待つファミレスへ向かった。
「おかえり」
 美嘉が満面の笑みで右手を差し出しながらアタシを出迎えた。
 アタシは何も言わずにその手に五千円札を三枚置いた。
 テーブルを見ると、相変わらず美嘉とメイは好き放題豪遊していたらしいとわかった。
 たぶん凛の取り分はまたほとんど残らないだろう。
 帰ろうとしたアタシの背中に、
「また明日もよろしくね」
 美嘉が楽しそうにそう言った。
 それを聞いてメイが笑った。
 凛は何も言わなかった。



 アタシはまっすぐ家には帰らずに駅前まで歩いて、アタシが好きなブランドのサマークラウドのお店に入った。
 学校のそばにあるファミレスから駅前までは結構な距離がある。
 美嘉たちのように電車通学の子たちは、駅で電車を降りた後で駅前の駐輪場に停めた自転車で学校に登校する。
 その日もアタシは、朝迎えに来てくれたyoshiの自転車の後ろに乗って登校していたから、駅前まで一時間かけて歩いた。
 夏が始まる前に、新作のワンピースが出て、商店街の道路から見えるショーウィンドウに飾れていたそのワンピースにアタシは一目惚れした。
 すぐにも買いたかったけれど、月に五千円しかおこづかいがもらえないアタシにはとても買えないと諦めていた。