「……何で?」
何で持ってっちゃうの?
呟くあたしに、叶チャンは目を伏せた。
「……絶対教えねー」
その時、叶チャンが顔を赤くした理由を知るのは、もう少し先のお話。
「のぞみ、絶対忘れてんだろうな」
「何?」
「昔、将来の夢とか話した事あっただろ」
「あぁ、覚えてるよ!てか叶チャンも覚えてたの?」
「当たり前だろ」
二人で話した将来の夢。
あたしは可愛いお嫁さんになりたかった。
それは叶チャンのって意味で――……
あれ、叶チャンの夢は可愛いお嫁さんと結婚する事だったけど。
それはあたしなの?
って聞いた後の記憶がやっぱり曖昧だ。
「叶チャンの夢はさぁ、可愛いお嫁さんと結婚する事だったよね。あれって誰の事だったの?」
覗き込む様に叶チャンを見ると、叶チャンは呆れた顔をした。
「やっぱり覚えてねーじゃん」
「え、えへへ」
笑ってごまかすあたしに、溜め息を一つついて、叶チャンは言った。
「のぞみのファーストキスは、あの時俺が奪った」
そして苦笑いを浮かべた。