おじさんの小さな微笑みには、もう、寂しさは見受けられなかった。
ただあたしは、胸が苦しくて。
おじさんとおばさんに、そんな過去があったなんて思いもしなくて。
叶チャンの名前にはそんな願いが込められていたなんて……
今のあたしには苦しくも温かくて。
「先月、仕事で東京に行った時、会ってきたんだ。叶一の好物が今でもハンバーグだって話したら、会いたいって、泣いて言われたんだ。あんなに頑なに合わせる顔がないって言ってた奴が」
おじさんは右手で掴んでいる、ブラックコーヒーの入ったカップに目を落とした。
もう冷めてしまったコーヒーに、おじさんは口をつけなかった。
「叶チャンがハンバーグを好きな事とおばさんと、何か関係があるんですか?」
叶チャンは昔からハンバーグが好きだった。
でも、昔っていつからだったかな。
あたしが叶チャンにハンバーグを作ってあげるようになったのは、いつからだったか……
思考を巡らせてみても、答えに繋がる記憶は見つからなかった。
そんなあたしに、おじさんは幸せそうな微笑みを浮かべ、顔の前で指を組んだ。