「お母さん、ちょっと叶チャンの所行ってくる」
隣で慣れない手つきで野菜を切っていたお母さんに一言告げ、玄関に向かった。
そういえば、花火の時もこうやって叶チャンに呼び出されて……
あの時、あたし達の関係は『ただの幼なじみ』に戻ったんだよね。
だけど、修学旅行の時、ホテルで叶チャンがあたしに問い掛けた事――
“のぞみが一番幸せだった時っていつ?”
“その幸せだった時に、俺は居た?”
あれはどーゆう意味だったのかな。
あの時の叶チャンの深意は、今でも分からない……。
玄関のドアを開けると、冷たい風が、部屋着姿のあたしの体を縮こまらせた。
外はもう暗く、夏、こうやって出た時とは気温が全く違った。
そう思うと、あれはもう随分昔の事のような気がした。
家の前に面している道路に出ると、あの日と同じ場所で、同じ様に携帯の画面を眺めて立っている叶チャンがいた。
「叶チャン、どーしたの?」
そっと声を掛けると、暗闇の中に、街灯と携帯の明かりで浮かんでいた叶チャンが、小さく笑った。