「――叶チャン……」
「……え?」
叶チャンは、ショーウインドーに飾られているウェディングドレスを眺めていた。
男の人がドレスなんて眺めていたら、目立つのに。
しかもカッコイイ人なら尚更。
叶チャンがショーウインドーを眺めている間も、周りにいる女の子達の視線はドレスではなく、明らかに叶チャンに注がれていた。
そんな事にも気付かないのか気にしていないのか、叶チャンはずっとドレスを眺めている。
ねぇ、今、何を思っているの?
もしかして、あの頃を思い出しているの?
ちらっと見えた叶チャンの横顔は、今にも泣き出しそうなくらい、悲しそうな顔をしていた。
心が乱される。
切なくて、胸が締め付けられた。
でも……
でも、もう……。
「何でもない。人違い」
「え……、そう……」
結夢は何か言いたそうにしたけど、あたしは笑ってそれを制した。
あたしはもう、叶チャンの事を考えない。
そう決めたから。
視界の端に捉えたショーウインドーには、もう叶チャンの姿はなかった。