彼氏の余命を知ってる彼女。



雑に涙を拭いながら、私はお母さんに聞く。


「気付いていたと言ったら嘘になるけど、ヒナがあの無の世界へ行ってしまったって事には気付いていたわ。

…でも、ヒカル君が亡くなった時、もしかしたや身代わりの方法を使ってヒナを守ってくれたのかなって…」


「う…っひっく」


涙が止まらなくて、必死に耐えていると、お母さんは優しく私の頭を撫でた。


それはまるでヒカルが私にしてくれたようなあの感覚で──。


    


数分泣き続けて落ち着きを取り戻すと、お母さんがクスッと小さく笑う。


「…どうしたの?」


「いや、親子二代、あの無の世界へ行って、同じ死神に出逢うなんて、偶然って凄いなと思ったのよ」


「あはは、確かに」


──それと、大切な人に命を守ってもらった事も。


    


ねぇ、ヒカル。


ヒカルは私に新しい出逢いを求めていたから、私はきちんとヒカルとの約束守るよ。


だけど──、


だけど、たまにはヒカルの事を思い出しても良いよね──?


それ位は許してね。


──ヒカル。


空から私を見ていますか?


きっとヒカルなら私が約束を守らないか、見張っているよね。


──大丈夫だよ。


私、ちゃんとヒカルとの約束守るから。


ヒカルとまたいつか逢う為に──。


    


 エピローグ .。


    


──人はいつだって死に向かって生きている。


──人は必ず死が訪れる。


──だからそれまでの人生を精一杯歩こう。


この言葉は、昔、世界で一番愛していた人が好きだった言葉でした。




「あらぁ…」


数十年後、私は八十過ぎのおばあちゃんになり、孫も出来て、そう上病気もせず、幸せな日々を送っていた。


そんなある日、私はいつだか来た事のある何もない世界に一人、立っていた。


八十過ぎだからって若い頃の記憶力はなくならないもんじゃな。


なんて思いながらヨボヨボの足で無の世界をゆっくり歩く。


    


…ここは何も変わらないんじゃな…。


辺りを見渡してそう静かに呟く。


数秒、何もない天を見上げていると、後ろから温かい風が吹いた。


その風は何故か心地良くて──、


「…あら…」


目から無意識に涙が溢れ出すような優しい風だった。


私はゆっくり風の吹いた方へ振り向いた。


    


「…」


──あの時。


愛しい人を失ったあの日。


私はあなたからもらった第二の人生を歩み始めた。


それは壮絶な苦しみや悲しみでとても容易い道ではなかった。


でもそれを乗り越えられたのはあなたがくれた道だから。


…ねぇ、私、もうそろそろ


「…」


その道、Uターンしても──いいかな?


    


「…また、出逢えたね」


黒のマントのようなモノで全身を包み、私に恐怖を抱かせる大きな切れ味の良さそうな大きな鎌を担いだ男の人。


そして、優しい瞳をした──死神。


いや。


「…そうだね、ヒカル」


あなたがどんな姿になっても私はもう何も怖くない。


決して逢えるはずのない二人がまたこうして出逢えたんだから。


ねぇ、ヒカル。



私、結構姿変わっちゃったけど、これからずっと一緒に居てくれる──?



私が笑顔でそう言うと、君も変わらないあの笑顔で──


    


「ずっと一緒に居よう、ヒナ」


っと、懐かしい笑顔で呟いた────。



fin


    

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