──人はいつだって死に向かって生きている。
──人は必ず死が訪れる。
──だからそれまでの人生を精一杯歩こう。
この言葉は、彼氏が好きな作家の座右の銘でした。
私の彼氏はこの言葉が大好きでした。
──俺らには必ず死が訪れる。だからそれまでの人生を精一杯一緒に歩こうな。
そんな言葉を笑顔で私に言う彼氏の
“余命”
をあなたは知っていたら
どうしますか────?
真実という名の運命──
────四月。
一面に広がる雪景色を見る度、まだ春が訪れてないことを実感する。
白い息を吐き、鼻の先を赤く染めて長く続く一本道を歩く。
「う~、寒い~」
紺色のPコートを羽織り、毛糸のマフラーで鼻と口を隠しながら嘆く。
──安藤 ヒナ。 私の名前。
サク、サク、と雪を踏み締める音が耳に入る度、寒気がする。
季節の中で冬が一番キライ。特にこの、世間一般では春と言われてるが、地元ではまだ冬の名残りが残るこの季節が。
「こんなんじゃ何処にも遊びに行けないじゃん」
「ヒナはホントに冬がキライだよな」
遠くにある雪の山を見つめながら低い声がそう言う。
氷点下近い温度の中、私の左手をギュッと握り、体温を分けてくれている人物。
私の隣で一緒に歩いている、長身で、今時系の男子。
全てが完璧で文句なしの私の彼氏。
──杉谷 ヒカル。
ヒカルとは中学三年生の時に塾で同じクラスになって、初対面なのに初日で意気投合して仲良くなったんだ。
席が隣だったてこともあるけど、ノリも良くて初めて男子と気が合うって思えたのがヒカルだった。
高校の志望校も同じで、二人っきりで勉強したこともあった。
最初は男友達として仲良くなったのだが、段々ヒカルを男として見始めてしまった。
理由は私が進路について悩んでるときにずっとそばにいて助けてくれたから──。
それからずっとヒカルに恋心を抱いていた。
私とヒカルが付き合うようになったのは高校に入って、一ヶ月後のこと。
告白してきたのはヒカルからなんだけど、ヒカル曰く、
『中学の時からヒナの事が好きだったけど、中々勇気が出せなくて告白は出来なかった。でも高校に入ってヒナの事を気になり始めている奴がいて、とっさにしてしまったんだ』
らしく。
告白された時、ただでさえ整った顔が夕日に照らされていて、その姿がかっこ良くて頭が真っ白になって、自分自身なんて返事をしたのか覚えてない。
だけど、今こうやって隣に居るってことはオッケーしたんだな、ってその時の自分に感謝する。
────ただ一緒に歩いているだけで幸せなんだ。
ジッとヒカルを見つめ、思い出に更けて居ると、ヒカルは不思議そうにこちらを向いた。
「何見てんだよー」
目を細めて私を睨みながら言う。
「んー?私の彼氏はかっこいいなって思ってさ!」
私が笑顔でそう言うと、段々ヒカルの顔が赤く染まっていくのがわかる。
──ヒカル、好きだよ。
この生活がいつまでも続くと思ったんだ──。
この幸せがいつまでも──。
* * *
「ただいまー」
家の中の温かみを感じ、靴を脱ぎながらそう叫ぶ。
「おかえりなさい。今日も寒かったでしょ?もう少ししたら夕飯出来るから着替えてらっしゃい」
私の声に反応したお母さんがキッチンから私に向けて言う。
外の寒さで本当に体が冷えてた事もあり、ダッシュで階段を駆け上がって二階にある自分の部屋へと入った。
部屋の暖房を付けといてくれたお母さんに感謝する。
「はぁ、疲れた」
今日は高校の始業式があり、久しぶりの学校で疲れがドッと押し寄せる。
私は今日から高校二年生。ヒカルと付き合ってもう少しで一年になる。
それを考えただけで、勝手に顔がにやけてしまう。