「いや、まぁ……俺が口出すところじゃないし。お前らも周りに気ぃ遣って頑張ってるみたいだし?」

「……」

「だけど、無理だけはするなよ?」

「……ありがと」


何でだろうなぁ。

春希との事は、何も話してないのに。

何で聡君には、バレちゃうんだろう。


一度聡君に向けた視線をランに戻すと、春希は空を見上げたまま、何かに気が付いて煙草の火を消したところだった。


「……雨」

「え?」

「雨、降ってきた」

「マジで? 俺傘持ってきてないんだけど」


ぼんやりと眺める空には、重たそうな雲が立ち込めていて、ポツポツと降り始めた雨が、ランのコンクリートに灰色のシミを作っていく。


「午後のオペはどうする?」

「今日は城戸とコトノちゃんにお願いする。あの人、パテラ得意だから」

「そっか。じゃー俺は表で診療か」

「うん。お願いします……って、なんか嫌な顔?」

「いや、診療好きだからいいんだけどさぁ。城戸ファンのババァとかに、診察室に入った瞬間、あからさまに残念そうな顔されるとへこむんだよ」

「あははっ! そんな事あるの?」

「あるよー。あと、胡桃ファンの男とか?」


聡君は、いつもこうして核心には触れず、見守ってくれる。

それがすごくありがたくて……時々、すごく申し訳なくなる。


「聡君、ごめんね?」

「ん? なにが?」

「何か、いつも気を遣わせてしまって……」


だけど、いつも私がこんな風に謝ると、聡君は決まって笑いながら言うんだ。


「胡桃は人のこと気にし過ぎ。もっと自分勝手にしたっていいと思うぞ?」

「……うん」


だけどね、聡君。

私の我儘で、たくさんの人を傷付けてしまったんだよ。


――私は十分我儘で、どこまでも自分勝手。

最近、それがよく分かってしまった。