今野先生との付き合いは、思ったよりもすごく楽で、上手くいっていると思う――と言っても、まだ一週間なんだけど。


お互い忙しい仕事だから、こっちに戻って来てから、会えたのは一回だけ。

一緒に夜ゴハンを食べて、帰りにカフェによってお茶を飲んで、家まで送ってもらって……。


それ以上のことは特にないけれど、だけど朝と夜、毎日送られてくる、「おはよー」と「おやすみ!」という、たった一言ずつのメールは、嫌いじゃないと思った。

元々、四六時中ベタベタと一緒にいるのはあんまり好きじゃないし。


あの頃、春希とあんな風にいつも一緒にいられたのは、自分でも本当に驚くべきことだったんだ。


「はぁー……」

分かってるんだけど。

こんな風に、誰かと春希を比べたり、想い出したりしちゃいけないっていうのは。

だけど、忘れるにはまだもう少しだけ、時間が必要みたい。


穏やかに見える毎日。

それなのに、それが少しだけ取り繕ったもののように思えてしまうのは、考える時間が取れて、頭の中が少し整理できたからだと思う。


沖縄で、私に何かを話そうとした篠崎君。

「今話さないと、手遅れになるかもしれない」と言った仲野君。


――私の知らないところで、一体何が起きているのか。


それを知りたいと思う気持ちがあるくせに、やっと落ち着き始めた日常を壊したくないという気持ちが、私を臆病にさせるんだ。


「あーもー……」

頭を抱え込んで、溜め息交じりに机に突っ伏したのは、聡君と二人っきりの医局でのお昼休み。


「どうした?」

「んー……何でもなーい」

「何だそれ」


聡君には、春希との事は話していないけれど、一応、今野先生との事は話してみた。

そしたら「へぇ。まぁ、同業者の方が理解があっていいんじゃない?」なんて、軽く肩透かしな感想が返ってきた。


本当は、先に春希に話すべきだろうとは思ったけど……。


「城戸にまだ話してないんだろ?」

「……うん」

「気持ちは解るけどな」

笑いながら私の頭をポンポンと撫でて、聡君が視線を移したのは医局の窓から見えるドッグラン。


「あいつ、煙草の量増えてねーか?」

「そう……かな?」


煙草はキライ。

だけど、ボーっと空を見上げながら煙草を吸う春希の表情は、胸がギュッとなってキライじゃないかもしれない――なんて、やっぱり重症かも。


「……なに?」

窓の外を見つめたままそう口にした私に向けられるのは、頬杖をついたままの聡君の視線。