今なら、コイツが引っ越しの話題を持ち出さなかった理由がわかる気がする。


ずっとニコニコしていた裏側には凉菜の母さんが言ったように、不安や寂しさがあったんだ。


「だからコレは返す」


キモカワ猿のマスコットを凉菜に返した。凉菜は震える手で受け取る。


「ゆ…すけ」


「何?」


「たくさん電話してもいい?」


「あぁ」


「メールも返してくれる?」


「あぁ」


1つ1つの俺の返事に、安堵の表情を見せる凉菜。


「あたし存在を忘れて、他の女のコのところに行かないでね?」


「それはどうかな…」


「えぇ!?」


「嘘。行かねーよ」


もう、コロコロ変わる表情を近くで見られなくなる。そう思うと、心が痛い。