でも、残念なことに、ちょうどその電話のとき、私と拓海は喧嘩をしてしまっていたのだ。
つまらないことからの喧嘩だったと思う。
私は、怒った拓海の声がききたくなくて、携帯を耳から話して、相手の声がきこえないくらいの大声でわめいていた。
拓海もきっと私に怒ってわめいていたのだろう。
自分の声が録音に入らない設定になっていることが、唯一の救いだった。
笑顔が素敵な拓海の明るい声がききたいのに、喧嘩中の拓海の声がしっかり残ってしまっていて…。
だから私はいつも、喧嘩をした場所にくると、再生をとめた。
最後まで録音をきいたことはない。