もはや、囁き、と言った方が合うかも知れない。

そんな声がなぜ聞こえるかと言えば。


先生が私の左の耳朶に触れながら、そっと、本当に囁いたからだ。

私の視界は、先生のネクタイの結び目しかないほどに近い。

生徒達は、そんな私達の状況にすら気付かないほどにうるさい。


「…佐藤」


もう一度、私を呼ぶ先生の声がした。


「…はい。」


フワッと、微かにした甘いイチゴのような香りが、私に素直に返事をさせた。

触れられている左の耳朶だけ、熱い。



「これは、没収ですよ?」