「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」




どんなに擦っても、どんなに叫んでも、微動だにしない。
目の前に突っ立っている亮くんと悠太。
亮くんの手には、赤いものがぽたぽた落ちる、ナイフがあった。

お兄ちゃんは一回体をびくっとさせて、
最後の力で、繭に言った。




「…はぁっ…ご…っは…めん…ねぇ…」




それは、繭に言われた言葉ではない気がしていた。
そして、にっこり笑って、息をしなくなった。
左胸には、まだぼたぼたと血が流れていた。




「悠太、救急車だ。救急車を呼べ!!!!」




悠太も、亮も泣いていた。
最後に来た繭だけが、何も理解できないでいた。