栄治に与えられたのは、以前は納戸として使われていた玄関脇の4畳半だった。



 日は差さず、どんなに掃除をしてもうっすらと黴臭い狭い部屋。



 だけど栄治は、そこをパラダイスと呼んでいた。



 海の側の、俺の楽園。



 うるさくなく、寂しくなく、親しい人たちの気配がいつも満ちては引いていく場所。



「……あの頃の思い出ってね、今も私の宝物だよ」



 玲子は、ぽつりとつぶやくと、

慣れた手つきでグラスを干すカウンターの向こうの若い男の中に、

自分のよく知る少年の脆くてまぶしい面影を探した。