あの頃の栄治は、いつもリーシュコードで心から楽しそうにサーフィンの話だけをしていた。
13歳の少年にしては不自然なほど、学校のことも家のことも語らずに。
そしてそれは、本人や常連たちが言うように、
栄治がサーフィンのことしか考えていない単純馬鹿だからではなかった。
ぱっと見では素直で明るい栄治が、実は常に人との距離を測り、
相手が望むキャラクターを演じていることに気づいたのは、
玲子が先だっただろうか、誠が先だっただろうか。
それは、街ですり寄ってくる野良猫が見せる命がけの媚にもよく似ていて、
玲子の胸をいつも詰まらせた。