「うん、誠、厳しかったよね。
でも、おかげで健気に働く栄治は、お客さんから人気あったんだよ。リーシュコードの看板息子ってね」
お絞りを手渡しながら、玲子は笑って言った。
それは、その夏に常連たちから送られた栄治への称号だった。
リーシュコードの客も、パンチアウトの客も、
サーフィンに宿命的な恋をした栄治を暖かく見つめ、まるで弟のように競ってかわいがっていた。
「そりゃあ俺、あの頃から媚売るの上手かったし、なんの悩みもないふりはもっと上手かったし?」
すると栄治は、悪戯っぽい眼差しでさらりと毒を吐く。
「変わってないね、二重人格」
玲子は、ガラスのランプに火をともすと苦笑いした。