「玲子、もう大丈夫だろ。これからは栄治を支えていけるよな」
誠は、静かに言った。
その口調は、いつものリーシュコードの鬼軍曹ではなく、
母を亡くした幼い玲子を必死に笑わせようとしてくれた、
誰よりも頼りになる懐かしい兄貴のものだった。
玲子が唇を噛みしめてきっぱりとうなずくと、
その肩までの髪が、誠の巨大な掌の下でめちゃくちゃにかきまわされる。
玲子は必死に隠してはいたけれど、誠は気づいていたのだろう。
休日ごとに日焼けを増していく誠から、波のうねりの、サーフィンの気配を感じる度に、
玲子の弾けるような笑顔が、行き場のない胸の痛みによって一瞬ゆがむことに。