「立て! 栄治!!」



 玲子は、それを吐き出すように腹の底から叫んだ。



 祈りと共にこぼれた涙が、潮風に連れ去られていく。



 栄治は、右足を前に出すグーフィースタンスで立ち上がっていた。



 膝を曲げたまま、広げた両手でバランスを取り、細い顎をしっかりと上げて。



 やがその姿は、白く砕ける波頭の中に消える。



 玲子は、左膝をそっとなでると、
サーフシーズンを祝福するような夏空を見上げ、微笑んだ。



 夏は終わらない。



 玲子がなくしたサーフィンは、これからは栄治の中でより強く激しく生きるだろう。