「玲子ママ、頼むよ。これで最後だ。絶対に」
深々と頭を下げる誠に、玲子は困って目をそらす。
頼られると嫌とは言えないところは、2人はお互いによく似ていた。
誠の言うには、毎朝毎夕、食い付くような視線をサーフ中の背中に感じ始めたのは、
その年の春頃からだったという。
振り向くとそこにはいつでも、憧れを込めた熱っぽい眼差しで、
サーファーたちのブロンズの背を追いかける小さな少年がいた。
「もし俺がお兄さんのボードの上に立てたら、バイト先を紹介してよ」
いつの間にか少年と言葉を交わすようになっていた誠は、
数日前に彼の言い出した無邪気な賭けに乗ったそうだ。