Ⅳ 弟分との出会い



 栄治と出合ったあの頃は、玲子の記憶に残るどの夏より毎日が熱かった。



 玲子は、取りたての調理師免許をもてあます右も左も分からない小娘で、

リーシュコードの新米店主として誠からしごかれ続ける毎日を過ごしていた。



「玲子ママ、なにやってる! スープが零下まで冷めるぞ!」



「なんだこのいい加減な帳簿は! 自分の店潰す気か?!」



「客の前で仏頂面するんじゃねえ! 今のお前に愛想以外の取り得があるのか?!」



 やっと怪我の癒えた左足と心を引きずりながら、

ただがむしゃらに厨房と客席とを行き来していたあの熱い日々。



 汗の匂いと容赦ない叱責に満ちたあの頃を思い出すと、

今も玲子の背筋は自然としゃんと伸びる。