「先輩、俺、今日早番でもう体空いてるし、明日は休みなんだ。

店閉めてから貸し切りで飲ませてくれる? 10時半にまた来るよ」



 すると栄治は、そんな玲子の気持ちにはまるで気づかずに、

昔と少しも変わらない絶妙の呼吸で一息にそう言った。



「分かった、乾杯しよう。待ってるよ。でも……私と2人でもいい?」



 相変わらずの甘え上手に、玲子は胸の痛みを隠してそうこたえる。



「やった! 先輩、約束。絶対だよ!」



 だけど栄治は、その声が聞こえなかったかのようにそう言うと、

そのままあっさり背中を向けた。



 そして階段をひと跳びで下り、湘南道路の方向に駆けていく。