ひと仕事終えた玲子は、額の汗をぬぐうと、輝く海にもう一度視線を向ける。
大型台風がゆっくりと北上しているため、
今日の波は肩から腰辺りまでサイズが上がっている。
蝶の羽根のようなセイルをはためかせて、
何艘かのウインドサーフィンが颯爽と駆け抜けていく。
お腹の出っ張ったおじさんはゆったりとロングボードでライディングを楽しみ、
敏捷そうな少年たちは、飛沫をきらめかせながら派手なターンの練習にはげんでいる。
玲子は、無意識のうちにエプロンの紐をきゅっと結び直した。
階下には、父の鉄平が経営するサーフショップ『パンチアウト』があるため、
リーシュコードの客にはサーファーが多い。
だからこうして海を見下ろすだけで、その日の客の入りを読むことができる。
波間できらめく黄金の陽射しは、にぎやかな夜の予感を伝えていた。