うちの親父さん。



 ごく自然に栄治の口から出たその一言に、玲子はそっと微笑んだ。



 それは、栄治の田浦家での新生活をなによりも物語っていた。



 奥さんの志保と、生まれたての娘の愛と、

伊太利亭のマスターの義父と、優しい義母と……。



 栄治はこれから、あの頃なによりも望んでいた自分の家族を作っていくのだろう。