「私がね、本当に欲しくて欲しくて、

でもどうしようもなく失くしたもの。

 それがこれなんだよ」



 玲子は、薬指の指輪にそっと触れると言った。



 それは、誠が買ってくれた、

玲子が半年にも満たない間宝物にしていた、そして最後は誠に返すしかなかった、

小さなダイヤの指輪と同じしんとした光を秘めていた。



「……先輩」



 栄治の薄い唇が、微かにゆがむ。



 その顔は、玲子に、母親が再婚したときの十六歳の栄治を思いおこさせた。



 そのとき栄治は、小さな子供のように、

玲子の腕の中で一晩泣き明かしたのだ。