「……ここから海の匂い、するよ」



 やがて栄治は、玲子の胸元に顔を埋めてそう囁いた。



 押しのけられるのを恐れるように、微かに震え続けながら。



 シャツ越しに感じる早い息遣いが熱い。
 


 栄治の濡れた唇が、玲子のシャツのボタンを外し、鎖骨に強く歯を立てる。



 玲子は、唇を噛んで自分の中のうねりを数えた。



 ひとつ、ふたつ、みっつ。



 潮は満ち始めている。



 玲子の両手は、いつの間にか栄治の戒めを抜け、

さざ波のような呼吸を伝えるその背に回されていた。